足柄上医師会における糖尿病対策について
 

第43回 日本プライマリケア学会神奈川支部学術集会

                                                  H09.03.22

シンポジウム「21世紀に向けての検診事業」

「足柄上医師会における糖尿病対策について」

足柄上医師会糖尿病対策委員会委員長 奥津紀一


T 平成7年度(第16回)糖尿病週間行事結果

 足柄上医師会では昭和55年より糖尿病週間行事を始めたが、当初は糖尿、血糖検査、
講演会、食事指導を行った。
 昭和57年より患者調査を開始し平成2年より患者登録として地域内の患者の把握につとめて
きた。
 平成5年にはマニュアルを作製し医療機関の糖尿病治療の標準化を計った。
平成7年度には診療中断患者に対するアンケート調査、眼底検査の徹底を行なった。

1. 糖尿病週間行事

 

 (1)学術講演会(学術、スポーツ医部会と共催)

    日医認定スポーツ医学講座

       日 時  平成7年10月25日



       場 所  開成町福祉会館



       演 題  糖尿病の運動療法



       講 師  東京慈恵会医科大 田嶼尚子先生

 (2)保健医療セミナー

       日 時  平成7年11月1日



       演 題  成人病と眼



       講 師  安藤展代先生

 (3)開成町無料糖尿病検査  5件

 (4)中断患者に対するアンケート調査

       発   送  150件   回 答  87件



       治療再開者   23名

 (5)11月、12月糖尿病患者の眼底検査

       153件  糖尿病性網膜症  15件

 

2. 糖尿病患者登録


  (1)足柄上地区医療機関   32施設  2、235件



  (2)地域外医療機関      6施設     78件



            計    38施設  2、313件

 

3. 糖尿病診療中断患者に対するアンケート調査集計

(1)アンケート発送総枚数            150枚



  アンケート返送総枚数             87枚

(2)以前の診断結果について

     糖尿病  48件
     糖尿病の疑い  8件
     わからない  21件

(3)現在診療中の者                48件

(4)診療を中断している者

 

@ 医療機関で診断され治った 4件
A (市・町)検診で異常なし  5件
B 自分の判断で治った 4件
C 経過観察中で期間が空いている  6件
D 治療は大変なので続けられない 2件
E 特に自覚症状がないので様子を見ている 12件
F 本人死亡 5件
G 不明 1件

  
 
  (5)治療再開した者                23件

     ・アンケートは糖尿病患者で3ケ月以上来院していない患者を対象
      に行われた。
     ・8医療機関により患者回答の報告があった。
     ・回答率58%で成績はあまりよくなかった。
     ・患者の半数近くが自分を糖尿病とハッキリ認識していない。
     ・3ケ月以上中断しているのに現在治療中を答えている者が約半数
     ・中断している者の中で治ったとしている者  15名、
      自覚症状なので様子を見ている者      12名、
      この辺も医療機関による説明不足がうかがえる。
     ・本人死亡5、医療機関が知らなかったものが5名もあった。
     ・治療再開者が23例もあり、このアンケートの有効なことを示し
      ている。

 

4. 眼底検査結果について


   (1)1月、12月の糖尿病患者の眼底撮影総数   153枚

   (2)このうち眼科医に判定してもらった総数      59枚

   (3)異常なし

      a.自医院で判定                73枚
      b.眼科医による判定              45枚

     (4)所見のあったもの

      a.糖尿病性網膜症               14枚
      b.白内障                   13枚
      c.緑内障                    2枚
      d.KWT                    2枚
      e.KWU                    2枚
      f.単純性網膜症                 1枚
      g.コーヌス                   1枚

・11月、12月の糖尿病患者の眼底検査については、初めての試みなので意
味が解らない医療機関もあったようだが、眼科医により糖尿病性網膜症とされ
たものが14件あった。このうち主治医が気づいていなかったものが3〜4件
あった。

 

5. 糖尿病患者登録


住所別、糖尿病 診断・治療・合併症(平成7年度)        

住所 性別 人数 診断 治療 合併症






























南足柄市 445 192 154 71 24 242 169 23 4 23 29 26 3 189
421 180 138 69 28 223 171 25 0 41 35 24 3 221
866 372 292 140 52 465 340 48 4 64 64 50 6 410
中井町 79 25 20 32 1 48 25 3 1 9 1 4 0 25
70 26 15 28 2 54 15 1 0 7 5 2 0 29
149 51 35 60 3 102 40 4 1 16 6 6 0 54
大井町 122 67 32 20 2 53 47 15 1 11 14 7 0 62
136 63 44 28 0 53 71 8 2 14 3 10 1 73
258 130 76 48 2 106 118 23 3 25 17 17 1 135
松田町 137 77 34 19 5 57 66 8 1 16 8 13 0 61
147 75 42 9 13 57 68 15 2 26 12 9 0 73
284 152 76 28 18 114 134 23 3 42 20 22 0 134
山北町 201 89 63 35 10 92 87 16 3 26 26 21 6 120
226 100 77 33 10 102 94 25 5 45 23 23 1 155
427 189 140 68 26 194 181 41 8 71 49 44 7 275
開成町 130 83 30 11 6 57 63 8 0 11 5 7 2 52
112 57 39 7 5 61 33 13 1 10 7 8 0 63
242 140 69 18 11 118 96 21 1 21 12 15 2 115
不明 9 3 1 2 0 6 2 1 0 0 1 0 0 0
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
9 3 1 2 0 6 2 1 0 0 1 0 0 0
合計   2235 1037 689 364 112 1105 911 161 20 239 169 154 146 1123


・登録の患者総数は減少している。患者登録始まって以来のこと。
・合併症は全体に多くなっている。合併症に対する考え方が厳密になったためだろう。



診断





 A 空服時血糖140以上又は随時



   血糖200以上



 B GTTにて糖尿病型



 C GTTにて境界型



 D すでに管理中でA、B、C、いずれか不明

 ・診断法でA・・・空腹時血糖値140以上、血糖値200以上のものが多い ということは重症例が多いということを示しているのか。



治療別患者数

  食事療法
のみ
経口血糖
降下剤
インスリン 経口剤

インスリン
不明
男性  555  459    74    10  25  1123
女性  550  452    87    10  13  1112
計  1105  911   161    20  38  2235

・インスリン+経口剤で治癒されている患者が多くなってきている。特に病院での増加が目立つ。
 インスリン+αグルコシダーゼ阻害剤による治療が多くなってきたのか、調査の必要あり。
・不明者38、来年調査時にはなくすようにしたい。



合併症別患者数

  網膜症 腎症 神経障害 壊疽 高血圧症 総合計
男性  96  84  78 11 269  509  778
女性 143  85  76  5 309  614  923
計  239 169 154 16 578 1123 1701

・全体に軽度増加

 



糖尿病患者の死亡例24例

性別 年齢 死因 性別 年齢 死因
 1 83 脳血管障害  13 86 腎 不 全 
 2 81 脳 出 血  14 89 腎 不 全 
 3 96 脳 梗 塞  15 59 肺   炎 
 4 93 脳 梗 塞  16 81 大 腸 癌 
 5 70 脳 梗 塞  17 77 胃   癌 
 6 80 脳 挫 傷  18 58 肺   癌 
 7 83 心 不 全  19 59 肝 臓 癌 
 8 93 心 不 全  20 65 癌性腹膜炎 
 9 90 心 不 全  21 85 糖尿病性昏睡
10 72 心 停 止  22 53 縊   死 
11 68 心室細動   23 73 事 故 死 
12 76 急性心筋梗塞 24 86 老   衰 

 糖尿病性昏睡・・・1    肺 炎・・・1

 脳血管障害 ・・・5    自 殺・・・1

 心 障 害 ・・・6    事故死・・・1

 腎 臓 病 ・・・2    老 衰・・・1

 癌 ・・・・・・・5

6. 平成7年度糖尿病週間行事のまとめ


   (1)糖尿病登録患者が事業開始以来初めて減少した。
      中断患者の登録抹消が多く、また新規登録者が少なかった。

   (2)診療中断患者のアンケート調査を行い、治療23名の治療再開者
      を得た。

   (3)11月、12月糖尿病患者の眼底検査を行い、糖尿病性網膜症の
      患者を14名発見した。


U 市・町で把握している糖尿病検査異常者の調査

 基本健康診査、その他の検診事業と糖尿病管理とのつながりを調べるため足柄上地区
 南足柄市、山北町、開成町、松田町の協力を得て、市・町の把握している糖尿病患者
 または糖尿病疑いの者について調査をした。
 基本健康診査で異常所見を示した者、糖尿病教室参加者が主な対象となっている。

市・町で把握している糖尿病検査異常者

  市   町  A市 B町 C町 D町  合 計 
  総   数  200 148  71  56 478
糖尿病 127  58  50  35 270 57%
 受診している 123  58  50  30 261 55%
   登録されている  98  25  34  10 167 35%
   (地域外) ( 2) ( 2) ( 0) ( 0)  
   登録されていない  25  33  16  20 94  20%
   (地域外) (25) (15) ( 5) ( 5)   
 受診していない   4   0   0   5 9    2%
糖尿病の疑い     73  91  21  21 206 43%
 受診している    44  73  16  14 147 31%
 受診していない  29  18   5   7 59  12%

 

糖尿病患者登録総数 971 249 437 287 1944


  ・検診時の数値より明らかな糖尿病、現在糖尿病としての投薬、注射など
    治療を受けている者を糖尿病とした。
    検診は糖尿病を疑われたが、精検では糖尿病とされなかった者を”糖尿
    病の疑い”とした。
  ・”糖尿病の疑い”で受診しているのは、高血圧症などの他の症患で医師
    の管理下にあるものをいっている。
  ・市・町で把握している糖尿病検査の異常者の57%が糖尿病であった。
  ・糖尿病患者の97%が医療機関を受診している。
  ・受診している患者が登録されている割合は地区によって異なる。
  ・市・町で把握している者の86%は医療機関を受診している。
   
    医療機関受診の有無は聴き取り調査によるものなので、数字が多めに出て
    いるものと考えられるが、検診で異常とされたもののほぼ全員が医療機関
    を訪れていることと推定される。


V 糖尿病患者登録(平成8年度)新規登録者の発見動機


  ・医療機関が糖尿病を発見するときの動機について

    平成8年度の新規登録患者について調査してみた

    

    

    平成8年度 糖尿病患者登録



      新規登録者の発見動機



  1.新規登録者数      ・・・・・・・・・    212名



  2.発見動機報告数    ・・・・・・・・・    212名  100%



  3.動機別集計



      @健康診断で      ・・・・・・・・・      50名    24%



        基本健康診査    ・・・・・・・・・      20名

        人間ドック      ・・・・・・・・・        6名

        職場健診        ・・・・・・・・・      19名

        その他          ・・・・・・・・・        5名



      A自院外来で      ・・・・・・・・・    123名    58%



      B他院よりの紹介  ・・・・・・・・・      35名    16%



      C不明            ・・・・・・・・・        4名      2%



      ”健康診断で”というものは24%であった。

      ”自院外来で”というものが58%で多かったがこの中がでも

        ”以前健康診断でいわれたことがある”というものが半数以上あるが

        今回はこの実数を把握するまでの調査はできなかった。

      ・糖尿病患者の発見に対し健康診断の果たす役割は大きい。

W 結語


  1.足柄上地区では総人口約11万人のところに2,235名とかなり多い

      糖尿病の患者登録を得ている。

  2.市・町で把握している検診異常者はほとんどが医療機関を受診している。

  3.医療機関で糖尿病患者を発見する動機として健康診断の果たす役割は大きい。

  4.足柄上地区の糖尿病については、健康診断の結果が患者の診療につながっている。

  5.糖尿病患者で治療を受けていない者は、ほとんどが診療中断者で、その原因とし

      ては、医療機関や市や町の検診結果説明時の教育不適切が考えられる。


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